第5回 先進医療技術 ―がん治療のカギを握るコンパニオン診断薬―

 メラノーマや非小細胞肺がんに対して期待される免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ。効果もさることながら、医療保険財政を破たんさせるとまでいわせた高額な薬価は、財務省が試算したところ年間1兆7500億円にも達し、医療の現場や医薬品業界に大きな騒動を巻き起こしています。
■ニボルマブvsペムブロリズマブ
 ニボルマブを販売する小野薬品工業はこの試算に反発。2016年度のニボルマブの売り上げ予想を1260億円と発表しましたが、中医協(中央社会保険医療協議会)は高額医薬品の引き下げを検討、2017年2月には100mgあたり72万9849円から36万4925円へ、ほぼ半額に引き下げました。次回の薬価改正は2018年4月を予定していますが、医療保険財政への影響を懸念する世論に押し切られた格好で、緊急引き下げとなりました。

 この薬価をめぐる騒動を横目に見ながら市場投入のタイミングを見計らっていたのが、ニボルマブの競合薬ペムブロリズマブです。

 小野薬品&ブリストルマイヤーズのニボルマブに対し、ペムブロリズマブはメルク&大鵬薬品によるもので、どちらも抗PD-1抗体作用を機序とする免疫チェックポイント阻害薬です。T細胞におけるPD-1は免疫を抑制する負のスイッチで、ある種のがん細胞はPD-1に結合するリガンドPD-L1やPD-L2を発現させてT細胞を不活性化させ、免疫システムから身を守っています。
■免疫チェックポイント阻害薬とは
 ニボルマブやペムブロリズマブはT細胞のPD-1に強く結合し、がん細胞が発する不活性化シグナルを阻害、T細胞を活性化させてがん細胞のアポトーシスを誘導します。がんの免疫治療はブレーキとアクセルに例えられますが、ニボルマブやペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞によってかけられたブレーキを外すことで効果を表す新しいタイプの薬剤です。

 免疫チェックポイント阻害薬は特定の抗体とそのリガンドの結合を阻害する薬剤なので、特定のリガンドが発現していないと効果を発揮しません。そのため、薬が劇的に奏効する患者とほとんど効果のない患者との差が極めて大きいのが難点です。

 ニボルマブは臨床試験の段階でPD-L1の発現量を勘案しなかったため、効果は全体の2~3割程度という結果に終わり、第一選択薬にはなれませんでした。そのため、ニボルマブの適応は化学療法による治療後でないと受けられません。また、使用者の約1割に重篤な副作用が起こる可能性があり、治療を受けられる医療機関は限られています。
■大手製薬会社も参入する見込み
 一方、ペムブロリズマブは投与前のPD-L1発現率が腫瘍細胞の50%以上であれば第一選択薬として適応が可能です。このPD-L1発現率の検査用として、ペムブロリズマブとほぼ同時に薬価収載されたのが、コンパニオン診断薬のPD-L1 IHC 22C3 pharmDxです。コンパニオン診断薬とは分子標的治療薬の使用に先立って、標的となる分子の発現量などを調べ、薬の効果が十分に期待でき、かつ副作用の発現が少ない患者を識別するための先進医療技術です。

 ペムブロリズマブの薬価はニボルマブとほぼ同等ですが、第一選択で使用できるという強みを持ちます。現在、適応はメラノーマと非小細胞肺がんのみで、腎細胞がんや古典的ホジキリンパ腫にも適応されるニボルマブが一歩先を行きます。今後、この市場にはスイスのロシュや英アストラゼネカといったライバルの大手製薬会社も参入すると見られ、コンパニオン診断薬が競争のカギを握ることになりそうです。