第98回 患者が拒否した治療の説明不足で損害賠償


 食道がんと診断された患者が新免疫療法を希望。医師は標準治療との併用を勧めたものの、それ拒否します。別の医療機関でも標準治療を勧められましたが、やはり同じように拒否しています。患者はその後、死亡しますが、患者の原告は新免疫療法と標準治療との併用の必要性を、患者に十分説明しなかったとして損害賠償を請求。それが認められたという医師に厳しい事例です。
【事例紹介】
東京地方裁判所 平成24年7月26日判決 損害賠償請求事件
 

 患者(男性・当時57歳)は2003年3月に食道がんと診断され、某病院の医師から外科手術または根治的放射線化学療法を勧められました。しかし、患者は新免疫療法を希望。被告医師宛の診療情報提供書を持参し、4月に被告医師の医療機関を受診しました。

 被告医師は、患者に標準治療と新免疫療法との併用を勧めましたが、患者は新免疫療法の単独治療をあくまで希望。そこで、まずは単独で治療して経過を観察し、がんの進行が認められれば標準治療を併用することにし、経過観察の画像検査をA医大で受けるように説明しました。

 ところが、被告医師が8月に患者に確認したところ、経過観察の検査を受けていないとのこと。12月に腫瘍マーカーの悪化傾向や胃のもたれ、腹部の膨満感などを訴えたので、がんの進行を疑って検査を受けるよう指示しましたが、これも受けないままでした。

 結局、患者がB病院で検査を受けたのは、翌年5月6日。胃接合部にボールマンI型病変の腫瘍が認められた。B病院は、患者と配偶者に放射線治療、外科的手術、抗がん剤治療を提案。しかし、ここでも患者は拒否。治療法の選択は被告医師と相談すると述べ、同月8日に相談した被告医師からは、根治手術および放射線治療と新免疫療法との併用を提案されました。

 同月24日、患者はC大学病院を受診、最後のチャンスと手術を説得されましたが拒否。6月7日にA医大に入院し、放射線治療と抗がん剤治療を受けたものの、肝臓・肺へ転移し、同年10月1日に死亡しました。この経緯において、被告医師に損害賠償請求がなされました。
【判決と考察】
 争点は、「新免疫療法の説明義務違反の有無」「説明義務違反と死亡との因果関係」の2つです。裁判所は、患者に新免疫療法と標準治療の併用を単に勧めるだけでは不十分と判断。新免疫療法単独での治療効果を具体的に説明し、食道がんでは根治は考えられないと説明すべきとしました。一方、死亡との因果関係については、患者が外科的手術に強い拒絶を示し、また併用治療の治療効果の説明を受けたにもかかわらず治療を受けなかったとして、認めませんでした。損害賠償請求額は約1億5000万円でしたが、結果的に100万円の慰謝料の支払いが命じられました。

 一般論としては、最初に併用治療を勧め、新免疫療法単独は悪化した際に切り替えると説明すれば、十分な説明義務を果たしていると考えられます。しかし、裁判所はこれでは不十分と判断。本件では証拠品として、新免疫療法のパンフレットが原告側から提出されていますが、証拠価値が高いだけに記述内容には注意を払う必要があります。新免疫療法に留まらず、がん診療では一歩踏み込んだ説明が必要であることを示唆する事例です。